『それは,密告からはじまった』(土肥信雄著;七つ森世書館)
都立高校(元)校長と東京都教育委員会の対立。 左右のイデオロギーの対立の話かと思っていたが,読むと全然違う。 最初に書いているとおり,土肥校長のしてきたことは,左右の対立とは無関係の,ごく普通のことではないか。 #いや,普通よりもずっとよい先生というべきなのだろうけど。 教育委員会に批判的であっても,意見を表明しただけで,実際に方針に反することをしていたわけではない。 それにも関わらず,なぜ不利益を被るのか。 これを読む限り,どう割り引いて読んでも,教育委員会がおかしいとしか思えない。 『瓦礫の中から言葉を わたしの〈死者〉へ』(辺見庸著;NHK出版)
震災について,ずっと疑問に感じていたことがある。 多くの死者・負傷者が出て,あちこちに惨状が広がっていたはずだ。 さすがにテレビで大々的に報道するのは難しいと思うが,報道関係者が目にしていないとは思えず,いずれ流出して大きな問題になるのではないかと。 しかし,幸いにもというべきなのだろうが,そのような事態にはなっていない。 #あったのかもしれないが,話題になっていない。 これが日本人の良識というものであれば,喜ぶべきことなのかもしれない。ただ・・・。 本書にはいくつかの話題があるが,特に気になったのは,「下からの統制」という言葉。 ナショナリズムとはまた違う。「空気を読む」ことが強制力をもつ状態ということか。 震災以前から少し感じていたことではあるが,腑に落ちる表現。 『福島の原発事故をめぐって』(山本義隆著;みすず書房)
原発事故をめぐって,というタイトルだが,内容は福島の事故を追及するというのではなく,日本の原子力行政そのものがテーマ。 日本の原子力発電所建設は,潜在的な核保有国になるため,というのが大きな理由であった。エネルギー供給よりも外交的な影響力をもつのが目的だったようだ。これは著者の個人的な主張ではなく,当時の関係者の発言に基づいている。 また,廃棄物処理や電力会社の運転至上主義などの問題点を,自然科学の視点や過去の事故事例などをもとに指摘。 本編だけでは100ページに満たない本だが,原子力発電の問題点を事実をもとに明確に指摘されており,感情的な「脱原発」の主張とは一線を画している。 ついでながら,震災から1年ということで。 日本赤十字社 当然ながら,今も義援金は受付中。 『山はどうしてできるのか』(藤岡換太郎著;講談社)
山ができるしくみの説明を通して,プレートテクトニクス・プルームテクトニクスを解説。 1つのテーマに沿った展開というのは,偏ってはいるが教科書にはない部分が丁寧に議論されているので,新鮮である。 京都の東山がどのようにしてできたのか,など,身近でも考えたことがなかった。そして,鯖街道と関連も。どちらも,花折断層が関係している。
『相対性理論』(杉山直著;講談社)
学生の頃,著者の一般相対性理論の講義を受けた。 4回生向けの講義を背伸びするつもりで3回生のときに受けたが,それでも「わかったつもり」になれる講義だった。 その先生の本,しかも高校復習レベルから,ということで,安心して購入。 専門的に勉強するつもりもないので,極力数式は追わず,あらすじを味わうつもりでさらっと読んだ。 1章あたりが短く,潔く要点をしぼった構成。そして,イメージしやすい例示。また,背景などもおさえながらの解説は,それぞれの式の位置づけを理解する助けになる。 とはいえ,相対性理論をさらっと理解,は難しかったようだ。10年以上前の講義の記憶をよびさますぐらいのつもりだったが,あまりうまくいかず。また機会を改めて,数式を追いながら,問題も解きながら,じっくり読みなおしたい。 『FREE』(小川忠洋著;アスコム)
サブタイトルは,「フリーで利益を生み出す45の鉄則」。 FREE戦略のさまざまなアイデア。 中途半端にやるのではなく,ある程度思い切ってやらなければならないらしい。 読めばなるほどと思えるのだが,実際にできるかどうかは,ある程度自信が必要だろう。 『パソコンは日本語をどう変えたか 日本語処理の技術史』(YOMIURI PC編集部著;講談社)
文字の扱いについて,勉強になるかと思い,読んでみたが,技術的な話というよりも,プロジェクトXのような読み物的な要素が強く,期待とは違った。 話題豊富で読みやすく,読み物としては面白いのだが。 『教育論議の作法』(広田照幸著;時事通信社)
かつて,高木仁三郎の市民科学についての本を読み,また,教育学の勉強をしていたとき,「市民教育学」というのがつくれないかと妄想したことがある。 ある意味,それを実現した本と言えるかもしれない。 「教育をふまじめに語ってみたい」という発想で,教育についての議論で出てくるさまざまな言葉が,教育学の知見をベースにしながら,ひらたく語られている。 一部の人の「想い」に振り回されることも多い教育を,少し引いた視点から,考えるのによい本。 1つ,本書の中で特に広めたい主張。 ------ 今こそ,教員を含めた大人たちが「学校での勉強は役に立つ」ということを,子どもたちに訴えていくことが必要なのではないでしょうか。 ------ 役に立つ立たないが大事ではない,という意見もあるかもしれないが,少なくとも役に立つことを主張するのは,教育にとってプラスの話。
『デジタル教科書のゆくえ』(西田宗千佳著;TAC出版)
デジタル教科書について,ジャーナリストの視点で取材したもの。 推進する団体,制作する業者,学校現場の様子など,さまざまな立場を取材。 デジタル教科書反対,という立場の取材はないのだが,全面的に反対という主張は稀と考えてよいのだろう。 まったく今まで聞いたことがない,考えたことがない話という感じはしないが,読み終えていくつか思ったことを。 ・デジタル教材を使うことが特別なこと,になっているうちは普及しない。 ・資料集や問題集,プリント,実物,実験など,これまで「教材」として使われていたものと並列的に位置付けられるようになる必要がある。 ・教科書がデジタルデータになって便利,というだけでなく,デジタル教材を使うからできる教育を見つける必要がある。 ・実験や実物に劣る画像や動画は,それなりに価値はあってもやはり補助的な扱い。 ・キーワードは,共有,学習の履歴,個々の支援,学習者の参加,通信の利用 ・iPadのような道具は,iPadを囲んで班で相談するなど,協同学習に活かせることも。このような身体性に関わる部分は,現場にいない人間の想像だけでは思いつきにくい。 ・デジタル教材を使うのなら,その前提で指導要領を作り直すことを考える。ただ,具体的なことは「?」。 ・学校現場では,子どもへの直接の教育以前に校務のIT化が重要。校務の負担が現場の時間を奪う。 これを読んでいても,学校へのデジタル教材の普及はまだまだ先のこと,という気がする。 今はまだ,試行錯誤の時期。逆に今,試行錯誤しておかなければ,波に乗り損ねる。
『深紅』(野沢尚著;講談社)
知人に勧められて,しかも本を貸していただいたので,最優先で読んでみた。 大晦日に読み始め,除夜の鐘をついて,続きを読んだ。この本で年を越した。 非常に惹きつけられる本であった。 家族を殺された主人公と加害者の娘の出会い。 単純に主人公が加害者の娘に復讐するだけのお話しではなく,逆に温かい心の交流というわけでもない。 主人公の加害者の娘に対する感情の揺れが,「この2人はどうなってしまうのか」という気持ちにさせる。 解説にもある通り,五章構成の中で第一章・第二章のインパクトが強い。 第一章は,幼い主人公が家族の遺体に出会うまで。全体に漂う緊張感と一見無駄なような細かな描写。しかし,この細かな描写があとで意味をもつ。 第二章は全編通して,加害者の上申書。ここで事件の全体像が読者に提示される。 大人になった主人公が出てくるのは第三章から,加害者の娘が出てくるのは第四章になってやっと。 大胆な構成のようにも思うが,やはりこれがよいのだろう。
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